第28章 緋色──Rye, Bourbon, Russian
私は病院のエントランスまで足を引きずりながら行った。
「痛た……」
ドアの横のガラスに寄りかかると、凄い形相でベンツからジョディさんが降りて来た。それに続いてこれまた怖い顔で降りて来るコナン君。
何かあったのかな?
そう思ったが、私は怪我もあってあまりゴタゴタに関わりたくはなかったので、こちらから声をかけることはしなかった。
と、車から割と落ち着いて降りて来たのはキャメル捜査官。
「あれ……あなたは……」
「えっと……FBIのキャメル捜査官でしたよね?外国人タレントの事件以来ですか……ね?」
私は記憶が確かでないので首を傾げつつそう言った。
キャメル捜査官も頷いてくれたので、私はホッとしながら話をした。
「でもこの病院に何の用ですか?」
「実はちょっと事件に巻き込まれましてね……。その被害者がジョディさんの友人で、ここに運び込まれたんですよ……」
「……あらま」
つくづく事件に巻き込まれやすいことだ。
「それで、彼女の容体が悪化したって病院から連絡があって、ここに駆けつけたんです……」
……ん?
私は少し違和感を抱いたが、まぁいいかとスルーした。
それで話が尽き、自然と沈黙が訪れる。
そんな沈黙を破るように車が駐車場に入って来た。
バン、と音を立ててドアを閉めながら降りて来たのは──
「……安室さん!?」
私は驚いて体を少し前のめりにしてしまった。途端にまた右足に激痛が走り、私は前にいたキャメル捜査官に寄りかかる体になった。
「わ……っと、ごめんなさい!」
慌てて左足を使ってバランスを戻す。恥ずかしさと申し訳なさで、私はコホン、と1つ咳払いをした。
「……安室さんは何しに来たんですか?」
真面目に私が尋ねると、安室さんはいつもの爽やかな笑顔ではなく、どこか黒いニヤリとした笑みを浮かべた。
「ジョディ捜査官の友人の澁谷夏子さんにストーカーの調査を頼まれてましてね……。一応、様子を見に来たんですよ……」
「……ふぅん」
「そういうあなたはどうして……」
「見れば分かるでしょう?撮影中に足を捻っちゃったんです。おかげでこのザマですよ……」
私は肩をすくめてそう言った。
安室さんは「そうでしたか……」と納得した表情を見せ、「まぁ……」とキャメル捜査官の方を見た。
「僕の方はもう1つ用がありますけどね……」