第28章 緋色──Rye, Bourbon, Russian
ある日の昼間だった。
「きゃああああ〜!」
私は階段から突き落とされた。
突き落とした人物は私が落ち、身動きをしていないことを確認して去って行った──
……なんてことはあるはずもなく。
「……はい、OK!バッチリだよ瀬里奈ちゃん!」
私は今日も元気に仕事の真っ最中。今回は推理ドラマの被害者役だった。
え?歌手の仕事はいいのかって?(誰に聞いてるんだ)
もちろん、歌手としてライブに出たりもしているけれど、『藤峰有希子』の娘と世間にバレた後はもっぱら女優の仕事が殺到している。
私は転がり落ちた姿勢からむくりと起き上がろうとした。だが──
「……っ、痛」
「瀬里奈ちゃん?」
監督が様子のおかしい私に駆け寄って来る。私は監督に手を貸してもらい、何とか起き上がった。
「どうした瀬里奈ちゃん。怪我したか〜?」
「……分かんない、です。受け身は取ったはずなんですけどね……」
そう言いつつ今度は1人で立とうとする。だが右足に激痛が走り、私は膝からくずおれた。
「〜ッ!」
「瀬里奈ちゃん!?」
「瀬里奈!?」
そばにいた監督のみならず、マネージャーや他のキャストの方々も駆け寄って来てくれた。
撮影は一時中断、私は撮影場所から程近い杯戸中央病院に行くことになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「捻挫ですね」
病院の先生にそう言われ、私とマネージャーの珠希さんは揃って頭を下げた。「「ありがとうございましたっ!」」
先生はニコリと笑う。
「今日の所は安静にしていてくださいね。一応テーピングをしておきますから、2日後にまた来るように」
「はーい!」
そう言って診察室を後にし、私は名前が呼ばれるまで待合室で待つことにした。
「名前が呼ばれたら、私が受付に行くから……。瀬里奈は車に戻ってる?」
珠希さんにそう言われたが、私は首を横に振った。
「座ってばっかで腰痛くなっちゃったから出来れば立ってたいんだけど……ダメ?」
私がそう言うと、珠希さんは少し呆れたようにため息をついた。
「ダメ……って言っても聞かないんでしょ?」
「うん、もちろん」←
真顔で言うと、珠希さんは苦笑いして許可してくれた。