第26章 ジョディの追憶とお花見の罠
ベッドでうつ伏せになっていると、部屋のドアがノックされた。
「……誰?」
視線だけドアの方へ向ける。返事はなく、代わりにドアがギィ……と開いた。
「機嫌悪いなァ……」
「……桂羅兄……」
桂羅兄だった。
桂羅兄は私の寝ているベッドに腰掛け、私の髪をサラサラと撫でた。
「TV見たよ?親のこと、隠してたんか……」
優しく訊かれ、私はこくりと頷いた。
「まぁ、不機嫌になっとったら幸せは舞い込んで来ぉへんよ?ほら、笑え!」
むにっとほっぺを引っ張られる。
「桂羅兄……いひゃい……」
「瀬里奈が笑わへん限りやり続けるぞ?」
「う……分かった!笑うから!笑うから離して〜!」
「よし」
桂羅兄はパッと手を離した。私はヒリヒリと痛むほっぺを両手で包む。
「笑えよ?瀬里奈は笑顔が一番や」
笑顔が一番──
「……お兄ちゃんも、そう言ってた」
『瀬里奈には笑顔が一番だ』
「……なのに、あんな風になっちゃった」
バラバラに。
あの頃の優しいお兄ちゃんはどこにもいない。
「瀬里奈……」
「私……誰も失くしたくない。みんなを守りたかった……。なのに、何で……何で守れなかったの……っ」
パパを殺したお兄ちゃんは許せない。でも、私を可愛がってくれるお兄ちゃんは大好きだった。
「桂羅兄……どうしたらいい?」
「それは……瀬里奈が考えることやな。気張り」
「……そだね」
私は目尻に涙を溜めつつクスッと笑った。
桂羅兄は私の涙を拭う。
「ホラ、よう寝ろ。明日は朝からバイトやろ?」
「ん。……おやすみ」
私が言うと、桂羅兄は振り向かずに手をひらひらと振った。