第26章 ジョディの追憶とお花見の罠
──瀬里奈side
今日はある映画館で映画の完成披露試写会をやっていた。その後はレコーディングに行く予定だったのだが──
「……え、休み?」
「そ。先方がダブルブッキングしてたみたいで……。夜まで時間が空いちゃったのよ……。だから夜まではフリーよ」
「そうなの!?」
私は珠希さんの言葉にらんらんと目を光らせた。
「ね、だったら近くの神社でお花見しない!?桜が満開で綺麗だし!」
「あら、お花見?瀬里奈にそんな趣味あったの?」
「ひどい!これでも女子ですからね!?」
「ハイハイ……。じゃあ、行きましょうか?」
私は「わーい!」と助手席で1人テンションが上がった。
今日は淡いブルーのワンピースに白のニットカーディガンだったから、ツバが広く顔隠しがしやすい女優帽をセレクトした。
「……これでいいかな?」
「いいんじゃない?くれぐれも目立たないように、ね」
「はーい」
珠希さんは駐車場に車を停めて来る、と言い残して去って行った。
「んー、まずは桜並木を散歩とかいいかもなぁ……」
そう思いつつ、私は1人桜吹雪の中を歩いた。と、いきなり腕を引かれる。
「きゃ……!?」
見ると、見知らぬ男。
「誰……ッ」
誰ですか、と言う前に口を塞がれた。「シー……静かに。バレたら困るでしょう?」と言う声には聞き覚えがあった。
「……安室さん?何でここに……」
「調べたいことがありましてね……。君こそなぜここに?仕事じゃないのか?」
安室さんに訊かれ、私はニマッと笑った。
「ふふふ、実は先方のダブルブッキングで夜までフリーなんです。だからお花見でもしようかって言って、今マネージャーが車を停めに行ってます」
「ホー……」
だが目の前の安室さんは変装している。ということは組織絡みか。
「……ベルモットは?」
「向こうにいます。会いに行きますか?」
「会いに行くほど仲良くないからいい」
私はそうバッサリ切り捨て、「もう行きますね」と安室さんのそばから抜け出した。
人混みの中をかき分けて進んでいると、ドンッ!とだれかにぶつかった。
「きゃ……っ」
「あ、ごめんなさいね!」
私にぶつかった小太りのおばさんはそう言ってそそくさと人混みに紛れた。
「……!」