第5章 突然の遭遇──
黒の組織の一員、テキーラと遭遇した殺人事件からしばらく経った頃。
「こんにちは〜」
私は毛利探偵事務所を訪れていた。
「あれ、瀬里奈お姉さんじゃないですか!どうしたんです?」
相変わらずの探偵事務所の看板娘・蘭ちゃんに出迎えられ、私は事務所の中に入った。
「お菓子たくさん作りすぎちゃったからおすそ分け。博士には食べさせられないし、ね」
私が手に持っていた紙袋を掲げながらそう言うと、話を聞いていたらしいコナン君は呆れたような顔をした。どうせまた「博士だもんな〜……」くらいに思っているのだろう。
だって博士に食べさせてたらメタボがどんどん加速するだけなんだもの。
そんな顔を横目に、私はテーブルの上にポツンと乗っているハガキに目をやった。
「それより、そこのハガキ何?すごい気になるんだけど」
「あ、これ?瀬里奈姉ちゃんも来る?当たったら、だけど」
「え?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ホー、あなたのお気に入りは『緋色の研究』ですか!」
「ええ……」
「自分は『赤毛連盟』が好きなんですが……」
「おや、あなたもですか!」
──ここは『“シャーロック・ホームズ”フリーク歓迎ツアー』一行の乗る車内の中。
周りはホームズの話で盛り上がっていたが、蘭ちゃんと小五郎さん、そして私は肩身が狭い思いをしていた。
「はいはいはーい!ボク、『四つの署名』!」
……新一にとっちゃここは天国ってか。私はため息をついた。
「そちらのお嬢さん、あなたはどの話が好きなんですか?」
私の隣に座っていた男性──川津さんに声をかけられる。私はうーんと少し考え込み、答えた。
「私はあれかな〜……アイリーンが出て来る話」
そう言うと、今度はひげ面の男──藤沢さんが私に話しかけて来た。
「ああ、『ボヘミアの醜聞』ですな!」
「あ、それかも……弟に付き合ってホームズの本読んでただけだから、タイトル覚えてなくって……」
あはは、と笑ってごまかす私にコナン君は「ニヤッ」とした顔をしていた。大方「俺に付き合ってホームズの本読んでてよかっただろ」くらいに思っているのかもしれない。
……腹立つ、あいつ。
私はペンションに着いたらコナン君をフルボッコにしようと心に決めた。