第19章 探偵たちの夜想曲(ノクターン)
「桂羅兄ッ!」
私は全速力で病室に駆け込んだ。いつも綺麗な顔で横たわっている彼の姿はなく──
「……瀬里奈?」
私の大好きな声で、望みに望んだ現実が──
「桂羅……兄……目が……」
──私の大好きな、桂羅兄が──目を、覚ました……!
私は嬉しくて思わず抱きついた。
「わっ!コラ瀬里奈、いきなり抱きついて来やはったら危ないやろ?」
懐かしい、優しい響きの京言葉。
もう2度と聞けないかもと思っていたけれど──
「目ぇ覚ましてくれてホント嬉しい!ありがとぉ、桂羅兄……」
私は彼に抱きついたまま泣いた。
久しぶりにこんな泣いた。涙腺が崩壊したのか、というくらい泣いた。泣き過ぎて涙が枯れるどころの話じゃなくなりそうだ。
「……入院着なんに……ビショビショになってしもたね。堪忍な」
「構わん構わん。明日には退院やし」
「そやの?ほな明日服とか持って来なきゃ……。住む家も必要やし……」
私はいつの間にか京言葉になっていた。
この時間でも開いている服屋とかがあるか調べようとすると、桂羅兄が困ったように笑った。
「オレのせいでこないなことになって悪いな。迷惑かけるけど堪忍な」
「もう、謝れへんで!私がやりたいだけやから……」
私は笑ってそう言った。
「でも、1日で住む場所なんて決められへんやろ。……どないしはる?」
桂羅兄は私の方を見て、また困ったように笑った。ああもう、その笑い方は本当に嫌い。
「その笑い方やめて」
「?」
「桂羅兄の困り顔、うちは嫌いやから」
そう言うと、桂羅兄はブハッと吹き出した。
「な……何なん!?」
「ああ……すまんなァ。でも、オレは組織に居場所知れたらマズイんやろ?」
桂羅兄が真面目な顔になって言う。私はこくりと頷いた。
「うん……。そやな……うちんトコ来はる?桂羅兄」
「……え?」
「うち、今は工藤っちゅう家の養女で、その人の家に知り合いと2人で住んでるんやけど……」
「い、いや、そらさすがに悪いやろ。オレはどっか適当に──」
「あかん。よう決めたからな。はい決定」
──かくして、私の住んでいる工藤邸に沖矢昴さんともう1人、手波桂羅が仲間入りしましたとさ。ちゃんちゃん。