第16章 映画編・迷宮の十字路 〜後編〜
「やっと……会えたっちゅーわけかい……」
平次君の呟きは和葉ちゃんにも聞こえていたらしく、和葉ちゃんが驚いたように目を見開いた。
「会えたって……?初恋の人に会えたん?誰?あの舞妓さん?」
「お前には一生教えたるかボケ」
「ええやん、教えてーな」
「せやなー、まぁ後1500年くらい経ったら教えてやってもええで〜」
「何やそれ!」
「へへーんだ」
そんなふざけた光景を悲しそうに見ている蘭ちゃん。
「蘭ちゃん……?どうかした?」
私はそんな蘭ちゃんを見かねて声をかけた。
「あ、お姉さん……。いえ、やっぱり夢だったんだなーって思って……」
「え……?」
そこでコナン君が持っていた炭酸を開けた。すると中身が勢いよく噴き出てしまった。
「コナン君!何やってんの……。──あ」
蘭ちゃんがハンカチを取り出すと、ハンカチには汚れが付いていた。
「やっぱりあれ……新一だったんだ……」
やっと……会えたね。
蘭ちゃんはそう呟いた。
「会えたって……何が?」
私がきょとんとすると、蘭ちゃんはいたずらっぽく笑った。
「えへへ、内緒です♪」
「何でー!? 教えてよ〜」
「内緒ですー」
「もー蘭ちゃんてば!」
あはは、とホームに笑いが満ちた。
だが、そこにも1つの影が落ちる。
「工藤瀬里奈……」
ある長身の男が、瀬里奈を見てそう呟いた。
ああ、間違いない。
透き通るような白い肌、こげ茶色の艶やかな髪、長い睫毛に覆われたダークブルーの大きな瞳、桜色のふっくらした唇。
全てが男の覚えている瀬里奈そのものだった。
「やっと……やっと、見つけた」
男が嬉しそうにそう笑う。とても不気味に。そしてスッと瀬里奈の横を通り過ぎた。
「会いたかったよ……瀬里奈。さあ……帰ろう、秋ノ宮家に」
男は私に向かってそう囁く。
私はバッと振り向くが、その姿はもうなく──
「何で……あの人がここに……」
「瀬里奈お姉さん?どうかしましたか?」
顔をみるみるうちに青くさせた私を心配したのか、蘭ちゃんが声をかけて来た。私はニコリと笑って「何でもないよ」と答える。
「……まさか、ね。まさかいるはずないわよ……瀬戸矢兄さんなんて」
私の呟きは雑踏に紛れた──