第2章 スコッチ
「……話すのは義務?任意?」
「義務ではないが……出来る限り話してほしい。分かるだけ全て、だ」
その答えを聞いた瞬間、私はぺこりと頭を下げた。
「義務じゃないなら、私にお話することはありません。すみませんが降ろしてください。自力で家に帰ります」
そう言うと、降谷さんは目を見張った。
「公安警察官は信用できないか?
「出来ない。そもそも私、公安もFBIもCIAも信用してないもん」
ははっと自嘲的に笑う私に、降谷さんは哀しそうな顔をしていた。
「だって、公安もFBIもCIAもあの組織に潜入しているのに、私達のことを助けてはくれなかった。何で私達のこと助けてくれなかったの?そしたら──お母さんだって、きっと……」
私はぎゅっと膝の上で握り拳を作り、顔を俯ける。
不意に私はキッと降谷さんをまっすぐ見据えた。
「何で助けてくれなかったの!?どうして……どうしてお母さんを助けてくれなかったのッ!?どうして……」
感情が爆発したかのように、私はぼろぼろと涙を流した。降谷さんの胸をどんどんと拳で叩く。
「どうして……どうしてよぉ……あの時、助けてくれさえすれば……私だってこんな風にならなかったのに……っ」
どうして……と呟く内に、私は睡魔に手を引かれていく。そして心地よい眠りに身を委ねた……。
瀬里奈が眠ってしまった後、降谷はバーボンの顔になって、ある人物にメールをした。
ここ十数年の間に、組織がらみで誰が抜けたのか、誰が死んだのか……それを調べるためだ。
「助けてくれさえすれば……か」
彼女の母を守れなかったのは降谷のせいではない。彼女の母とは面識がないのだし、そもそもその事件は降谷が組織に入る前のこと。
そう割り切っているはずなのに、なぜか──彼女の涙が目に焼き付いていた。