第12章 黒の組織と真っ向勝負 満月の夜の二元ミステリー
「……っ、そんなことない!お願い、死なないで!」
私は本気で思っていた。誰も死なないように、と──
……それは甘えなの?
誰も死なないようにって思うのは、甘いの?
自分はどうなってもいいから、周りの人達が死なないようにって願うのは、いけないことなの?
甘ったれてるのかな?
「でも、このままだったらオレは警察に捕まるか、組織の奴らに殺されるかの2択だろ?だったらオレは──喜んで死を選ぶさ」
「ダメ!お願い……死んじゃやだ……」
私はその場にへたり込んだ。いつかのあの場面を鮮明に思い出す。あの日も、私は何も出来なかった。ただ、飛び散る血を見つめることしか。
「お願い……もう誰も殺したくないの……」
私の目からは、いつの間にか涙がこぼれていた。
「悪いなルシアン……オレは一足先に地獄へ行ってるよ……」
「やめて──!」
パンッ!
うっ、と小さな呻き声を上げて、カルバドスの体は倒れた。──ああ、また殺してしまった。彼のように──見殺しにしてしまった。
「あ……ああ」
私はフラフラと降りる。そこには赤井さんが驚いたような顔をして立っていた。
「瀬里奈……?何をしている、まさか……」
「カルバドス……は、死んだ。自殺、した……」
私は抑揚のない声でそう言った。そして、目からボロボロと大粒の涙を流す。
「スコッチさんの時みたいに……守れなかった……っ!私、また人を、殺し……ッ!」
言葉が途切れ途切れになった。
息がどんどん荒くなる。脳に酸素が回らない。肺に空気が行かない。
「ごめ……なさ……っ!ごめんなさい……スコッチさん……桂羅……ッ!」
思わずあの日の彼らの名を口走ってしまう。
ふと、体の周りが温くなった。
「……落ち着け」
その声と匂いに、少しだけ安心する。
赤井さんは私の背中を優しくさすった。
「お前の手が血塗れだろうが何だろうが、それがお前の選んだ道だ。お前はその優しさで出来ることをやればいい。いいな」
「……っ、はい」
素直に返事が出た。自分の手が汚れていないと言われるよりも、はっきりと血塗れだと言ってくれたことにほっとした。
何でだろう、FBIなのに、この人には素直に話せる。安室さんには強がったりしちゃうのに。
──変なの。