第9章 バトルゲーム 〜謎めいた乗客〜
「爆発まであと30秒もないわよ!」
女の言葉にみんなパニックを起こした。みんなが我先に、と降りて行く。
「コナン君と博士は子供達を!──皆さん慌てないで!落ち着いて降りて!」
私は必死に声を張り上げた。バスの乗客があらかた降りた所で、ふとコナン君と哀ちゃんが座っていた席を見ると、
「哀ちゃん何してるの!?早く出なきゃ……!」
──哀ちゃんは席に座ったままだった。
「早く!あと何秒もないのに……!」
だが哀ちゃんは動かない。私はチッ、と大きく舌打ちをして、バスジャックしていた犯人が落として行った拳銃を手に取った。
そこへコナンが走ってくる。
「新一!?」
「瀬里奈!?灰原!」
私はちらりとコナン君を見、拳銃を発砲した。ガラスが割れると同時にコナン君が哀ちゃんの手を引っ張る。私は2人を前に押しやり、割れた箇所から外へ転げ落ちた。──そして、それのちょうどそのすぐ後に、爆弾が爆発した。
ゴロゴロッとアスファルトを転がり、私はコナン君と哀ちゃんを爆風から守るように覆い被さる。
あと数秒、いや一拍でも遅れていたら──そう思うと皮膚が粟立つ。だが今はそれよりも──
「2人とも平気!?」
私は体を起こしつつ2人に問う。コナン君は「うん!」と大きく頷き、そばにいた高木刑事に哀ちゃんを預けて自分は事情聴取に赴こうとした。
「自分の運命から……逃げんじゃねーぞ……」
コナンが哀ちゃんに向かってそう言った。
だが新出先生がコナン君の左腕の服をめくり、「無茶苦茶だな君は……」と文句を言う。
「事情聴取は治療を受けてからね。私がいたからこれだけで済んだのよ、もう」
「ごめんなさーい」
コナン君が子供のあどけない顔になって言う。だが新出先生は怖い顔で私の方を向いて言った。
「瀬里奈さんもですよ」
「は?」
「腕と足!血だらけですよ」
指をさされた所を見ると、──なるほど確かに。爆発で散ったガラスが私に細々と刺さっていた。
「ほんとだー……気づかなかった」
「君も、事情聴取は治療をしてからですね」
「はぁーい……」
私はふて腐れてそう言った。と、新出先生がそばへ寄って来て耳打ちする。
「あまり体に傷を付けないようにね、ルシアン」
「分かってる」
私はそれだけ答えた。