第18章 二幕:はじまり
そういって歩き出そうとした時。
「...結城くん!」
......ん?くのえさんの苗字?
「...................?」
くのえさんの顔を見ると、知り合い、じゃあないのか?
30前後の細身の男性。
「...僕だよ。柊。...覚えてないかな?君からしたら、思い出したくない頃の記憶かもしれないし。」
「..............柊...先...生??......お久しぶりです。覚えてますよ?」
柊という男に声をかけられてから無表情だったくのえさんの、顔に笑顔が生まれる。
見たことのある作り笑いだった。
「本当かい!嬉しいなぁ。...隣の彼は?あぁ、お義兄さんかな?」
「....違いますよ。安室透さんって言うんです。かっこいいでしょう?」
「え、あぁ。」
「はじめまして。柊さん?」
「...じゃあ、先生。私達行くところがあるので。これ、新しい連絡先です。また今度ゆっくりご飯でも行きましょう。今日はこれで失礼します。」
そう言ってくのえさんは僕の手を引いて歩いて行く。
「....くのえさん。よかったんですか?さっきの方。」
「はい。小学校の時の先生なんです。」
「そうだったのかい?それにしては、その」
「先生って言っても担任の先生とかじゃなくて、校内でたまにお話ししてくれるってだけだったんです。でも、あの時の私はすごく嬉しかったんだと思います。あの先生に嫌われないように必死でしたから。」
「そうなんだ。...それにしてもさあ、かつての恩師だとはいえ、恋人の前で違う男と食事の約束するってどういうことだい?」
「ごめんなさい。」
こうして、何度目かのデートも終わった。
来週末にはくのえさんの高校での文化祭がある。
今から楽しみになってきた。
つづく