第8章 末っ子の秘密
「あの人は生まれたばかりのアリスを自身の欲望を満たすためだけに道具のように扱おうとしていた。俺にはそれが我慢できなかったんだ」
その後、アベルさんは生まれて間もない私を連れてマリージョアから出て行ったそうです。
何とか数年は生き延びたそうですが、その後追手に見つかり私たちは離れ離れになってしまったそうです。
「ちょ、ちょっと待ってください!そんなことを言われても私一切覚えてないです!」
そうですよ。
もし本当に数年は一緒に居たのなら、どうして私にはその記憶がないのでしょうか。
「覚えてないのは無理もない。あの時の俺達には欲望にまみれた大人は恐怖以外の何物でもなかった。そあまりの恐怖におそらく記憶を失ったんだろう」
それを聞いても全く自信がありません。
自分が記憶を失っているというのも全く実感を感じないです。
しばらくお互い無言の時間が続く。
…どうしたらいいのでしょう。
「まぁ、しばらく窮屈かもしれないが我慢してくれ。絶対にアリスだけは守ってみせる」
守ってみせる。その言葉はどこか私の心を落ち着かせる言葉でした。
どことなくホッとしたのもつかの間、私はその場で崩れ落ちてしまいました。
「え…どうして…?」
立とうと思って足に力を入れてみてもなかなか入らず結局立てずじまい。
「おそらく、緊張状態が続いていたのと海楼石のせいじゃないかな」
そういって指をさされた方を見ると、そこにはっ見覚えのないブレスレットがつけられていました。
「微量ではあるけれどそれには海楼石が組み込まれているから能力は使えないようになっている。一応能力者だからつけることになったんだ。…ごめんな」
海楼石…
初めて付けました。
確かに能力は使えなくなっています。
「さて、今日は長く話過ぎた。聞きたいことがあるならまた明日答えてあげるから今日はゆっくりお休み」
アベルさんに抱えられて私はベッドに横たわりました。
「今度こそ、君を守ってみせる」
意識がもうろうとしていく中でアベルさんの声が聞こえた気がしました。