第1章 黄瀬涼太
家族や友人達に見守られながら、永遠の愛を誓いあって数年。
純白のベールの下で幸せの涙を流していた花嫁は、出逢った頃と変わらない澄んだ瞳とひたむきな心で、今もオレの心を掴んで離さない。
そろそろ次の幸せのカタチを求めてもいい頃だろうか。
「そろそろ寝よっか」
「う……ん」
色違いのパジャマに身をつつみ、ソファーの上でゆらゆらと船をこぐ華奢な肩を抱きよせながら、そう遠くない未来を夢見て、つい口許がゆるむ。
「結によく似た、可愛い女の子がいいっスね」
一瞬、意味が分からないという表情で、小さく首を傾げる仕草に目を奪われるのはいつものこと。
瞬きすることも忘れ、やわらかな頬に触れた指先から、ピリと走る痺れが身体の芯に火をつける。
欲しい、今すぐに。
「結」
問いかけた声は、自分でも驚くほど欲に濡れていた。
甘い唇も
艶やかな髪も
やわらかな肌も
もう幾度となく味わったはずなのに
舌なめずりをするオレを見つめる瞳が、小さな驚きと淡い期待でかすかに揺れる。
「……な、に」
「抱かせて」
この飢えはおそらく満たされることはないのだろう。
アイシテル、から
寝室に運ぶために抱きあげたオレの可愛い奥さんが、するりと首に腕を巻きつけながら「涼太にそっくりな男の子がいい……な」と寝ぼけた声でささやく。
あぁ、もう。
「やっぱ前言撤回」
「……え」
「結のせいだから」
胸にくすぶる独占欲を煽った責任は重い。
自分に都合のいい言い訳をしながら、オレは結とふたり、明けることのない夜の海へと飛び込んだ。
end