第2章 暖かい腕の中で
雀の鳴き声が聞こえ、薄く目を開けると朝日が柔らかく辺りを照らしている。
『ん、朝か…』
朝餉を食べる前に着替える為、布団から出ようとすれば暖かい腕に拘束されていた。
( ああ、だからあの夢を見たのね、)
懐かしい、あの人の夢。
それは、今の私を作り上げるきっかけとなったあの人。
( 会いたい、な )
そう思ったとしても会えないものは会えないのであえて口にすることも無く、そっと心の中に仕舞い込んだ。
ところで、この腕の主は一体いつまで寝ているつもりなのだろうか。
『おはよう、朝餉を食べる準備をしましょう…?』
そう促せば、ゆるりと拘束が解かれ、んん、と伸びをしながら起きたのは、大和守安定、私が初めて鍛刀した刀。
最近は専ら彼に添い寝してもらうことが多い。
「ん、うん…いく…」
ゆっくりとこちらを向き、私の頭をぽんぽんと優しい手つきで撫でながら、今日も安定はあの人の真似をして
「おはよう、紅葉。今日も1日幸せでありますように。」
そう言って額に口付けて部屋を出ていく。
あの人の真似をしなくても、私はもう平気だよ…って言えないのは嬉しいから?
それだけじゃなくて、やっぱり寂しいのだろうか。
____あの人を喪って空いた穴を、埋めたくないんだけどな。