第19章 傷痕
練習とはいえ、真っ向勝負をしているうちに、みんな少しずつ息が上がってくる。
点を取ったり、取られたり。
それをシーソーゲームと名付けた人は、さすがとも言える。
段々と晴れ間が現れ、4月とはいえ動き続けていると汗も遠慮なしに吹き出てくる。
こめかみを流れていく汗を、グイと肩口で拭った。
着替え、持ってくれば良かった・・・
一時的なお手伝いでマネージャーを受けるつもりだったから、まさかプレーに混ざるなんて想定外の事。
マネージャー仕事がせめて動きやすいようにっていう位の、軽い気持ちでジャージとシャツ1枚しか用意しなかった。
嬉しい誤算、ではあるけれど。
攻防戦が続くと、さすがにヘトヘトになってくる。
いま、何点なんだろう。
チラリと得点板を見る。
20対19。
どっちの点数がどっちなのかは、確認するまでもなく・・・負けている。
向こうのメンバーを考えれば、こっちのメンバーでこの点数なら文句はないのかも知れない。
でも、出来るならば・・・
勝ちたい!!
私が混ざっているから負けた・・・なんて思わせたくない。
向こうのチームにさえも、そう思われたくなんかない。
その為の、真剣勝負。
ーーピッ!ーー
もう何度目かの田中先輩のスパイクに、またも点を取られる。
得点版が、21対19と変えられる。
このターン、サーブは月島君か・・・
高い身長からのサーブは、月島君が言う【 小さい人 】が打つそれとは違って、私から見れば角度も威力も違う。
さすがに今まで女子の大会で、月島君程の身長の対戦相手はいなかったし。
でも、だ。
どんなサーブを打たれても、こちら側には澤村先輩を始めとする先輩達がサーブカットしてセッターまで繋いでくれていた。
・・・私はセッターに専念すればいい。
勝手にそう思って、安心しきっていた。
流れてくる汗を、また拭う。
その時、今まで感じたことのない何かを感じ、ハッと前を見る。
月島君の鋭い視線が、私を刺す。
体全体がゾクリとして、警鐘を鳴らし始めた。
清水先輩のホイッスルが鳴る。
月島君の打ったサーブは、ネットを超えたところで・・・
私の目の前を・・・落ちていった・・・
『う、そでしょ・・・』
目の前の出来事が処理できなくて、落ちてくるボールを触ることさえ出来なかった。