第39章 聳え立つ壁
私の歩幅に合わせて隣を歩いていた菅原先輩が、ふいにその足を止めて私へと体を向けた。
本当は聞いたらいけなかった事なのかも知れない、だったら何も知らないフリをする事も出来るけど、でもそれは今・・・やったらダメな事だと、私を見る菅原先輩の目を見て思う。
『ごめんなさい・・・勝手に私がモヤモヤして、繋心に練習試合なのに影山ばっかり出すのかって聞いちゃって。そしたら繋心が、』
菅「練習試合だからだ、って言われたんじゃない?」
『え?あ、はい・・・でもなんで分かったんですか?』
思わず聞き返すと菅原先輩は、そりゃ分かるよと言いながら風に遊ぶ髪を掻きあげた。
菅「だって紡ちゃん部活の時いつも言ってるっしょ?練習試合は試合の練習なんだから!とか」
『あっ・・・そう、でした・・・』
私がそう返すと菅原先輩は更に笑いながら、だろ?と言って私の肩をポンっと叩いた。
菅「それでいいんだよ、それで。オレ達3年は泣いても笑っても、いつかは最後の試合、最後の時間ってのが来る。その時に笑って終わることが出来るなら、オレはその方がいい。その最後の瞬間に、紡ちゃんから楽しかったか?って聞かれた時、オレは胸張って大声で楽しかった!って叫びたいしね」
それって、さっきの池尻さんの時の・・・
そう思って菅原先輩を見上げると、私の考える事が分かったのか眩しいくらいの笑顔を向けていて、私も同じように笑顔を作って返す。
そうしないと、泣いてしまいそうだったから。
試合に出られないかも知れない覚悟と、出る事を諦めない覚悟。
その両方を胸に秘めた菅原先輩は、いつもの飄々とした菅原先輩ではなく、輝いて見えて。
『スガさん、カッコ良すぎです』
菅「えっ?!それホント?!・・・やったぁ!紡ちゃんからカッコイイ頂きましたァ!」
『なんですかそれ・・・西谷先輩たちみたい』
思わぬ反撃に吹き出すと、菅原先輩も楽しそうに笑い出す。
日「スガさぁ~ん!早く早く!」
菅「いま行く!じゃ、紡ちゃん・・・競走な!」
入口で私達に大きく手を振る日向君に言って、菅原先輩は走り出す。
『あっ、ズルい!スガさん待って!!』
菅「早くしないと置いてくぞー?」
『あーっ!全力出すの反則!!』
そう叫んで追いかける私の前で、菅原先輩の笑顔が・・・また、キラキラと輝いていた。