第36章 目指すべき場所へ
『お先にぃ!』
ひと声掛けて、誰よりも先に走り出した。
影「てめぇ!フライングすんじゃねぇよ!!」
『いいじゃん別に!ハンデ希望!』
影「はぁっ?!」
旭「ふたりとも元気だなぁ···」
ポツリと言う東峰先輩に笑いながら、影山に追いかけられるようにしてダッシュする。
影「俺が先だぁっ!!!」
『あ!ズルイ影山!!待ってよー!』
影「待てと言われて待つバカはいないんだろ?」
私を見た影山がニヤリと笑って走り去る。
さすがに運動バカの影山になんて、勝てるわけがないよ。
ふぅっ···と息を吐いて足を止めると、その背中をポンポンッと押す誰かの手の感触が伝わり振り返る。
『大地さんにスガさん?』
菅「行くよ紡ちゃん!」
大「立ち止まったら、ちゃんとフォローするって約束しただろ?」
いつかの···小さな約束にトクンと小さく胸が鳴る。
澤「それに、誰かの一歩後ろからでも全力で走り続けたかったって···言ってたよな?」
それも···前に話した昔の私の気持ちで。
旭「オレが立ち止まってた時、バシン!と背中を叩いてくれたのは誰だったかなぁ?」
少し遅れて歩いて来た東峰先輩も、部に復活した時の事を笑いながら話し出す。
菅「旭はいつも足踏みしてる、だろ?」
澤「そうそう、このヒゲちょこが」
旭「えぇ···いいとこに合流したハズなのに···」
東峰先輩が加わった瞬間にイジりだすふたりに思わず笑ってしまう。
『私はもう、置いていかれるのも···見送るのも···イヤです。だから、今日からまたビシバシと清水先輩と一緒にみなさんのお手伝いをしますから!』
どうだと言わんばかりに胸をひとつ叩いてみせて笑う。
菅「紡ちゃんのビシバシって、コーチより厳しい時あるからなぁ···オレ泣いちゃうかも」
澤「···確かにな。でも、時には俺たちが見落としてるような小さな事に気が付いてくれることもあるし」
旭「うん···そうだね」
3人が揃ってウンウン···と頷きながらチラリと私を見る。
澤「だから···これからも俺達と一緒に走り続けような?」
『もちろんです!』
来るなって言われても、しがみついてカラーコートに連れてって貰うんだから。
「「「 頼りにしてるぞ、マネージャー! 」」」
『···はいっ!』
そんな私達の間を、穏やかな風が抜けていった。