第33章 それぞれの覚悟
目を閉じて、大きく深呼吸をする。
私は大きな大会でも、小さな大会でも例え練習試合だとしても、この瞬間が···好きだ。
あちこちで鳴り響くボールの音。
シューズが床に擦れる音。
それぞれが、これから始まる試合へと続く道標になる。
道「みんな、コート入るよ!」
道宮先輩の声に返事をして、ラインの1歩向こう側へと足を運ぶ。
さっきとはまた主審が代わっていて、ハジメ先輩が台に上がり、副審には国見ちゃんか。
知った顔がいるのは気恥ずかしい感じもあるけど、それでも私は中学の時以来の女子チームのコートに立っている。
『なんかちょっと、緊張するかも』
小さく呟きながら自分の両手を見つめると、その広げた手のひらの上を青っぽい物体がヒュッと横切り、私の胸元をチクリと刺激した。
視線の先に落ちた物体を拾いあげれば、それは見覚えのあるキラキラとした、派手なラメ入りの真っ青なヘアゴムで、持ち主···いや、それを私に飛ばして攻撃して来た人物が容易に分かった。
『···慧太にぃ、なにしてるの』
小声で言えば、ベンチに座る慧太にぃがニヤリと笑い顎に手を掛け足を組んだ。
慧「紡。お前···顔硬い、目が怖い、顔も怖い···そしてチビ助···プッ」
最初の方も許し難いけど!
最後のは1番聞き捨てならない!
更に言うならば最後笑ってるし!!
ヘアゴムを握り締めながら慧太にぃを見れば、慧太にぃはそれを面白そうにニマニマして見返すばかりで余計に腹が立つ。
慧「お前さ、久々だからって力入り過ぎ。ちっとは肩の力も抜いておけっての。じゃねぇとラストまで持たなくて、その辺でへばって転がるハメになるぞ···あ、転がってても小せぇから邪魔にはならねぇな、な?」
許すまじ···慧太にぃ。
お湯にコーヒー豆だけいれたカップを、特大マグカップにサイズアップする事を···決定します。
桜「ほら、紡?そろそろ始まるから、ちゃんと顔上げて前を向きなさい···大丈夫、ここにはずっと俺がいるんだからさ?紡はさっきの俺の言ったようにしながら通常運転すればいいから大丈夫、絶対」
ニマニマする慧太にぃの隣で、穏やかに微笑む桜太にぃを見て落ち着きを取り戻し、大きく頷いて見せた。
岩「これより、烏野対青城の練習試合を始めます」
ハジメ先輩の言葉で、ピン、と背筋が伸ばす。
いよいよ、始まる。