第33章 火の意志
ヒナタ奪還から帰ってきた時には、既に物見櫓の上の結界は消えていた。
そしてそれは、木の葉での戦争が終わった事を意味すると同時に、大蛇丸と三代目の決着がついた事を示唆していた。
サスケ達の元へ直接駆けつけるか悩んだ末、私は櫓を選んだ。
その櫓の上に、大蛇丸も三代目も気配が無く、その代わりに沢山の忍者の気配を感じたからだ。
『………三代目。』
今、目の前で倒れている人は、紛れも無く三代目火影。
腹には何かの術式が描かれ、微笑んで目を閉じていた。
恐らく、屍鬼封尽。
敵の魂を封印できるが、術者も命を失うという封印術。
『なんで…なんでこんな術…。なんで笑ってるの…?』
「風影に化けていた大蛇丸を…命をかけて退けたんだ。」
そう答えたのは、いつの間にか隣に来ていたカカシだ。
けれど、"退けた"という言い回しからして、トドメはさせて無いのだろう。
記憶をなくし、どうすれば良いか分からなかった私に、生きる場所をくれた恩人。
いつも穏やかで、里のみんなを見守ってくれた優しい人。
そしていつだって里の為、火影として戦い続けてくれた人。
誰もが認める、最高の火影…だった。
知らずのうちに涙が込み上げる。
(だめだ。忍はいつ如何なる時も、涙を見せちゃ。)
いつも、そんなルールなんて御構い無しに泣いている私だが、今回ばかりはそう頭の中で念じ続けていた。
そうでもしないと、私の心が壊れてしまいそうだったんだ。
大切な人を、失った辛さで。
「リクよ、もしかすると、記憶が戻った時に苦しい事があるかもしれん。
けど、前を向いて懸命に生きなさい、悩んだ時はわしを頼りなさい。
わしはいつでも、リクの味方じゃよ。」
にこやかに笑いながら語る三代目の姿が頭を過ぎり、冷静になる事の邪魔をする。
この時の私は、心が壊れてしまわないように自分を誤魔化すのが精一杯だった。