第29章 中忍試験・死の森
リクは奴の顔を睨みつけていた。
すると右眼から ツゥ…っと血の涙が流れる。
刹那。
突然、ヤツの顔に火がついたのだ。
急に現れた、見た事もない黒い炎が。
「ゔぁぁぁああー!!」
奴は掴んでいた私の首から手を離し、顔についたその火を消そうと触れたの手に、黒炎が燃え移っていた。
苦しんでいるところからすると、どう考えても奴の術ではない。
その黒炎はどんどんと身体に燃え広がり、奴を覆い尽くす。
私はズキンと痛む右眼を手で押さえ、肩を上下に荒い呼吸をした。
(いったい今のは何…?)
恐らくあの黒炎は、私が出した。
…けれど何も思い当たる術はない。
そんな術なんて、覚えた記憶はない。
黒炎なんてそもそも、見た事すらないのだから。
写輪眼にそんな能力がある事も知らない。
何が何だか分からずに戸惑っていると、黒炎で焼けたはずの奴は、再び後ろに立っていた。
一瞬何かと思ったが、焼けた肉体は、中身を失ったかのような、蛇の脱皮した後のようなものになっていた事を今確認した。
身代わりの術の一種だろうか。
チィと舌打ちをして振り返ると同時に、また首を絞められた。
『……離せ!』
痛む片目を閉じたまま、相手の腕を握り、抵抗する。
すると奴は、ニヤリと口角を上げ、クツクツと笑いだした。
「さっきの術は…。貴女、名前は?」
『歌神…リク!』
名を答えると、またしても奴は笑う。
いったい何なのか、何が言いたいのか、何を考えているのか、こいつは。
それに…いまの黒炎、知っているのだろうか?
「…なるほど、覚えておくわ。でもね、今は貴女じゃないの。」
『私じゃない…?どういう事よ!』
するとそいつは答えは言わず、「またね」と耳元で呟き、私の身体をサスケとサクラの元へ思い切り投げ飛ばした。