第29章 中忍試験・死の森
「リク…!」
首元にクナイを当てられたリク。
口元はニヤリと口角を上げてはいるものの、実際手が思いつかないらしく、一切行動を起こさない。
それに俺からしても、彼女が人質に取られれば何も手を出すことができない。
…しかし、巻物を渡すわけにはいかない。
リク一瞬こちらを見て、キッと俺を睨んだのだ。
それは、『巻物は渡すな』という彼女の意志だ。
なら、彼女を救うにはどうすればいい?
グルグルと頭を回していた時。
相手の顔を掠めるほどの距離に、クナイが投げ込まれた。
(てめーはいつもおせーぞ!ナルト!)
しかしながら、ナイスタイミングだ。
敵が俺に意識が向いている間の不意打ち、と言ったところか。
そのナルトが投げたクナイを、雨隠れの忍はリクから離れ辛うじてかわし、飛び上がる。
それを逃すまいと、リクはすぐさま投げ込まれたクナイをチャクラで足裏に吸着させ、さらに追撃する。
そしてそれに合わせてサスケは飛び上がり、クナイをかわした忍の左腕に自身のクナイを突き刺した。
「手荒いが、こうするしかなかった…!
ボケボケすんな!こいつ1人とは限らない…。
いいか!気を抜いたら本気で殺されるぞ!」
相手の血飛沫を浴びたサスケの姿に、呆然とするサクラとナルトに怒鳴るような形で言う。
リクはさらに追撃しようと構えていたのだが、俺が奴の腕を刺したのを見て、それをやめた。
無益な殺傷は必要ない。
それに、これ以上は相手が退散するだろうと踏んだらしい。
そのリクの予想通り、かなりの傷を負った雨隠れの忍者は、「アンラッキー」などと言いながら退散していった。
リクが目を閉じる。
そしてすぐにニコリと笑い、こちらを見た。
…1人であったようだ。
俺はほっと一息をつき、地面へと座り込んだ。
『…サスケ、ナルトくん。ありがと!』
「問題ない。リク、怪我は?」
『どこもないよ、心配しないで?』
そう言って、リクが返り血を拭ってくれる。
一時だが、人質に取られてしまったリク。
自分の力不足を感じたと共に、側に戻ってきた彼女に心から安心した。