第11章 珈琲色
「あー…早く俺にも運命の番(つがい)できないかなあ…」
ニノがぼそりと呟いた言葉にドキっとする。
「あ?今時…?」
「だって、翔ちゃん…見てよ大野さんと潤…あんな風になれたらいいと思わない…?」
「俺は…そうは思わないな…」
誤魔化すように俺は席を立った。
「今時、αとかΩとか…薬で抑制できるんだ。そんな人間の肉体的な本能になんか縛られたくない」
それだけ言うと、楽屋を出た。
まだ心臓が煩い。
どきどきする胸に手を当てながら、俺は歩いた。
今時…αだのΩだの、関係ない。
昔はΩを下に見るような世の中だったけど、Ωのフェロモンを抑制する薬が開発されてからは、あまり表立ってそういうことをいう人間も減った。
特権階級であったαの反発はあったものの、この世にはβが多いんだから、民主主義の原理ってやつが働いて、フラットな世の中になりつつある。
今では自分が、αなのかΩなのか、はたまたβなのかを申告しないでも働ける世の中になってる。
俺たち嵐だって…
メンバー間、お互いがなにかなんて、知らなかった。
だけど…あの二人…
智くんと潤は、運命の番になってしまった。
智くんはαであることを隠してはいなかったけど、潤はずっと自分がΩだということは隠していた。
抑制剤を飲んで、ずっとひた隠しにしてたんだ…
潤のイメージってもんがあるからね…
まさか嵐の松本潤がΩなんて…誰にも言えなかったんだろうな…
それに気づいたのが、βである雅紀。
一度だけ、油断した潤が抑制剤を飲むタイミングを間違えて…
その時一緒に仕事をしてた雅紀が、潤の出すフェロモンにやられてしまったらしい。
必死に自分の欲を抑えつけてたけど、我慢できなくなった雅紀はそれを智くんに相談した。
βだから、我慢できたんだろうけど…雅紀にはしんどかったろうな…
それが、あいつらが運命の番だってわかるきっかけになった。
今、智くんと番になった潤は、抑制剤を飲まなくても、いい体に変化した。
「…運命ね…」
運命のαと番になると、Ωのフェロモンはその相手にしか効かなくなるという。
目の前でそれを見てしまった俺たちは、今更ながらαとΩの運命の強さに、呆然とした。
そして、羨ましくもあった。
だって、俺はΩだから…
そして、ニノは…αだから