第11章 珈琲色
富士山の麓にある街…
ここには正体の知れない貴族の別荘がある
「こんにちはー!」
作業服姿の二宮が別荘の門のチャイムを鳴らしている。
『どちら様でしょう』
スピーカーから男の声が聞こえた。
「あ!すいません、私、庭仕事のアルバイトに雇われた二宮と申します…」
『ああ…承っております。只今門を開けますので、中にどうぞ』
ギィィと音を立てて、鉄でできた門が開く。
「わぁぁ…すげえな…」
遠くに見えるのが、屋敷であろうか。
ちょっと徒歩で行くのはゲンナリするくらい遠くに見える。
二宮は恐る恐る歩き出した。
こんな所、アルバイトで雇われた自分が入っていいのだろうか。
普通、従業員だったら裏口だろうに…
そう思いながらも二宮の目は、西洋風の屋敷に釘付けになっている。
やっと玄関であろうドアが見えた。
正面に階段はあったが、気が引けたので車寄せを登って二宮はこっそりとドアをノックした。
ぎぃぃと木製の重いドアが開くと、そこにはかっちりとしたスーツを着た年若い男が立っていた。
「二宮…様でしょうか?」
「さっ…様なんて!に、二宮ですっ!」
慌てて被っていたキャップを取ると、二宮は男に向かって頭を下げた。
「そう畏まらないでください。そちらの方も…」
「え?」
二宮が後ろを振り返ると、そこにはいつの間にか男が立っていた。
「ひえっ…」
「もしかして…大野様でしょうか?」
「はい…大野です…」
赤い薄手のセーターに中にはカッターシャツを着てネクタイをしている。
黒縁のメガネをくいっと上げると、ぼそぼそとあいさつした。
「今日から宜しくお願いします…」
「こちらこそ。私、執事の櫻井と申します。どうぞよろしく」
「あ、こちらこそ!」
「…よろしく…」
二宮と大野が小さく頭を下げると、櫻井は微笑んだ。
「では、まず御前にご挨拶を」
「ご、ごぜん?」
「こちらの主人ですよ。さ、どうぞ…」
櫻井が大きくドアを開け放つと、そこには広い玄関ホールが広がった。
「うわ…すげぇ…」
思わず二宮が声を上げるほど、広い空間。
ここだけでこんなに広いのならば、一体屋敷はどのくらいの規模になるのだろうか…
「参りましょう」
櫻井が先頭に立って歩き始めた。