第10章 Coke scene3
「ママさん…」
寂しそうだけど、でも意思は固そうで…
「あの子の一番辛い時、私はなんにもできなかった…小野くんのときも、内藤さんのときも…」
「小野くん?」
カズヤの口からは聞いたことのない名前だったから、思わず反応してしまった。
「あ…聞いていませんか?カズヤから…」
「ええ…」
「あの子の初恋の人です…もう、亡くなっています」
「初恋…」
「ええ…あの子が話してないんなら…まだ昇華することはできてないんでしょうね…」
「あ、あのっ…」
思わずテーブルに置いてあったママさんの手を握った。
「カズヤにはいいませんから…その話、聞かせてくれませんか…?」
ママさんは暫く考えてから、席を立った。
ちょっと強めのアルコールをグラスに注いで戻ってきた。
「…カズヤには言わないでくださいね…」
グビリと一口飲むと、ママさんは語りだした。
カズヤが中学二年のときに、両思いになった先輩で…
カズヤの初恋で、初めての人で。
そして、不慮の事故であっという間にこの世を去った。
カズヤは立ち直るまで酷く荒れて、内藤と付き合うようになるまで、ずっと引きずっていたそうだ。
「初めて、人に好かれて…人を好きになって…思い思われるってことを体験したんじゃないですかね…カズヤの家があんなだったから…」