第8章 ディープパープル
「櫻井、松本。ジュリーさんが呼んでる」
楽屋で二人、目を合わせる。
「え…なんで?ジュリーさん来てんの?」
潤が気まずそうに目を上げてチーフを見遣る。
「ま、覚悟しとけ」
楽屋を出ていくチーフを見送ると、ため息をつきながら立ち上がった。
「行こっか…翔くん…」
「ああ…」
今度は文春だって…
うるさいなあ…
俺の親父が退官してからというもの…
スキャンダルが後を絶たない。
これまで俺たちは守られてたんだと思う。
親父の見えない力が、ずっと俺たちを守っていた。
だけど、今はそれもない。
「…おまえ、何したの?」
トボトボと横を歩く潤に話しかけると、力なく俺を見上げた。
「電話…しただけ…彼女に」
「はあ?あんな口の軽い女に電話したの?」
「だって…嫌がらせとかされてるかと思って…」
「ばかじゃねえのお前…」
「そういう翔くんこそ…なにしたんだよ」
「別に…彼女に会うのになにしたもクソもねえだろ…」
「そうだけどさ…」
ああ…わかってる
阿呆なのは俺達だ。
もう庇護がないことはわかっていながら、それでも自分たちの欲望を捨てることなんてできない。
アイドルである前に、俺達は人間なんだ。
男なんだよ。
俺達がしあわせになって、何が悪い。