第7章 グレイ scene5
ぐにゃりと視界が歪んだ。
歯を食いしばってるのに、どんどんどんどん涙が溢れてきた。
「え…?智くん…?」
翔ちゃんが驚いて俺の顔を見た。
「なんで泣くの…」
ずっと…ずっと好きだった…
翔ちゃんが、男でも…
「なんでもない…」
ぐいっと袖で涙を拭いても、止まらなかった。
「智くん…」
翔ちゃんがハンカチを差し出してきた。
その手を、掴んだ。
「えっ…」
熱い手…大きな手…
でもこれは…俺のものじゃない
何も考えず、手が動いた。
翔ちゃんの指を唇で咥えた。
「なっ…なにするの!智くんっ…」
決めた
俺は、翔ちゃんを奪う
翔ちゃんと同じ顔をした男から…
翔ちゃんを奪うんだ
翔ちゃんの目を見ながら、人差し指を舌で辿る。
そのまま赤い花びらのような痣が散る首筋にキスをした。
「やめて…智くん…」
翔ちゃんの震える手を、俺の頬に押し当てた。
「キス…して…?」
甘い果実…
食べさせてあげる
「智くん…」
そう、もうちょっと
手を伸ばせば…
食べさせてあげる
半開きにした唇から、舌を出した。
誘われるように、翔ちゃんの唇はそれを吸い取った。
ソファに押し倒されながら、目に入ったのは…
窓辺に置いてある花瓶に咲く、水仙だった
END