第7章 グレイ scene5
「わぁ…よく似合う…」
スーツを着て部屋から出てきた翔にいは、見たこともないくらいかっこよかった。
「ほんとか…?ネクタイ、色大丈夫かな…」
姿見に自分の身を写しながら、翔にいは照れてる。
父さんと母さんは、そんな翔にいの姿を写真に収めようと、デジカメを持ち出して取り囲んでる。
翔にいは大学の4回生。
この春、就職して社会人になる。
今日は、入社式に着ていくスーツを初めて着たのだ。
今まで翔にいのスーツ姿は、成人式くらいしか見たことがない。
高校までは学ランだったし。
だから、翔にいはネクタイも結べないんだ。
「ネクタイ、曲がってる…」
父さんと母さんを押しのけて、翔にいの前に立つとネクタイを直した。
「…ありがと…和也…」
ふんわりと翔にいが頭を撫でてくれる。
「これから毎朝、結んであげるよ…」
「お、助かるな…」
俺の行ってる私立中学は、ブレザーだから毎日ネクタイ結んでる。
ネクタイ結びだけは、翔にいの先輩だ。
「和也に教えてもらわなきゃな」
そう言って、爽やかに笑う翔にいに見とれた。
「…和也…」
めって顔して、俺の身体を離す。
「さ、友達くんだろ?用意しろよ」