第6章 ショコラ scene4
智くんも手を伸ばして、奥様の背中に触れた。
そのまま奥様は潤の目を手で覆って、何やらぶつぶつと呟いている。
しばらくすると、潤の額に汗が滲んできた。
びくびくっと手足が痙攣すると、潤は目を開いた。
「潤っ…」
雅紀が呼びかけると、ゆっくりと視線を雅紀に向けるが何も言葉を発しない。
「このまますぐに空港に向かいましょう。東京まで、私が付き添います」
奥様に手をひかれると潤は立ち上がった。
でもまるで操り人形みたいにくにゃくにゃしてる。
目も虚ろでどこを見てるのかわからない。
慌てて潤にサングラスとマスクをして控室を飛び出した。
とにかく奥様の指示に従うしかない。
俺達は潤の分の荷物を持って、会場の外に停まってる大型バスに乗り込んだ。
そこからすぐに空港に向かって出発した。
バスの中では奥様がずっと潤の横に付き添ってる。
俺達はただひたすら二人を見ているしかなかった。
ぎゅっと雅紀が手を握って離さない。
俺は何も言ってやることもできなくて、ただ黙っているしかなかった。
こんな時、自分になんの力がないのが歯がゆかった。
もしも雅紀よりも強い力があれば…
雅紀の代わりになれるのに