第6章 ショコラ scene4
そのオレンジ色の光の中に入ると、ぴちゃんと水音がした。
どこから雨水が滴っているのか。
コツコツとブーツの踵の硬質な音がトンネル内に響く。
音が反響して、まるで俺を追っかけてくるみたいに聞こえる。
「やだやだ…」
俺はこう見えて凄く小心者なんだ。
こういうシチュは大嫌いなんだ。
早いとこ抜けよ。
そう思って駆け出した瞬間、足元に黒い塊が転がってきた。
「うわああっ…」
びっくりしてその塊を飛び越えて振り返った。
だけどそこにはなにもなかった。
「な…なんだよ…」
酔っ払ったかな…
でも確かに黒い塊が来たと思ったんだけどな…
どっかでみたことのある…
あれはどこだったろう。
何度もキョロキョロと周りを見渡したけど、なんにも見えない。
背筋がぶるっと震えた。
ちりん…
どこからか小さな鈴の音が聴こえた
ちりん…ちりん…
「え…?」
どこから聞こえてくるんだろう。
周りを見ても誰もなにもないのに…
逃げようとしたその瞬間、トンネルの入り口から俺を呼ぶ声がした。
「おーい!潤!」
旬の声だった。
「な、なんだよお…」
あからさまにホッとして力が抜けた。
「孝之が送ってくれるってさ。タクシー捕まえて待ってるから来いよ!」
「ああ!わかった…今行く!」