第9章 届いた手紙と蝶々結び
ジョエルは瞬きを繰り返してから、うんうんと何度も頷いた。
ああ、まずい。
完璧に、彼女の思う壷だ。
どうしてここに会いに来るなんて言ってしまったのだろう。
けれど、嬉しそうに目を輝かせているのを見ると、その選択は間違っていなかったのだと思えた。
「何か…借りて帰られますか」
「えぇ。また明日…返しに来ますわ。ちょうど気になるものがいくつかありましたの」
こちらの本で…と、ジョエルが右手を伸ばすが、ほんの少し届かない。
「んんっ…」
背伸びをしても届かないようなので、ファンドレイはすぐ後ろに立って、ジョエルが取ろうと手を伸ばしていた本を取り出した。
「あ…ありがとうございます」
あの夜と違って、今日の彼女のドレスは露出が随分少ない。
背後から覗いても柔らかそうな胸の谷間が見えないことにファンドレイは少し落胆してしまい、そんな自分を恥じた。
ぐっと顔を顰めて意識を反らそうとして、ジョエルが首を捻って後ろに立つファンドレイを見上げていることに気づいた。
図書室のかなり奥に位置するこの場所。
ジョエルは書架とファンドレイの間に立っている。
周りに人の気配はない。
「……」
青色の瞳が自分を求めているように見えて、ファンドレイはほんの少し身を屈めて、掠めるようなキスを落とす。
「っ…!」
ジョエルが驚きに目を見開くが、その瞼がそっと閉じられた。
抗えない力に吸い寄せられる。
「んっ…」
ファンドレイは再び口づけた。
今度はすぐに離さない。
ジョエルの腰に腕を回し、彼女を正面から抱きしめた。
彼女が本を落としてしまわないよう、その手から奪って後ろの棚に置く。
そして口づけから逃げられないよう、ファンドレイは右手でジョエルの後頭部を抑えつけた。
貪るようにその唇を味わえば、自然と息が上がる。