第2章 楓の口付け(黒バス・赤司征十郎)
そう思っていたのに、返ってきたのは予想外の答え。
「困ったな…」
「え…?」
何か赤司くんを困らせてしまっただろうか。
頭の中で理由を探していると頬に手を添えられる。
驚いて顔を上げると、優しい赤い瞳が私を真っ直ぐ見据えていた。
「楓にすら…妬いてしまいそうだよ、こんなに自分が小さい人間だとは思わなくて困っているよ」
「赤司、くん…?」
「…知らない俺に、抱かれていたの?」
目を合わせたまま、コツンと額も合わさる。
「し、知らない俺って…、楓、だよ?」
「でも俺だと思ったんだろう?」
ジリジリと端正な顔が迫り、私の顔に熱が集まる。
ここは、赤司くんの学校の目の前で。
今はまだ、お昼を過ぎたばかりで。
そんな事が頭の中をグルグルと回った。
「本当の俺と、どっちがいい?」
楓と赤司くん。
そんなの比べる対称じゃないのに。
「あ、かし…くん……」
あと僅かで唇が触れてしまいそうな所で私は絞り出すようにそう告げた。
それを聞き届けた赤司くんは満足そうに笑っていた。
「ねぇ、楓には出来ない事しようか」
「え…?」
頬に添えられていた手が後頭部へと回され引き寄せられる。
まさに今、赤司くんの唇が私の頬へ触れようとした瞬間ーーー。
「あ、」
「へ…?」
赤司が触れるより先に楓の葉が一枚私の頬を掠めて、膝に乗せていた本の上に落ちた。
視線を赤司くんからその葉へ移して私は思わず綺麗、と呟いた。
どうやらそれがいけなかったらしい。
「本当に…何処までも俺の邪魔をするらしい」
「えっ?えぇっ??赤司くん?」
「学校の目の前だしと思ってキスは頬に、と思っていたがやめた」
「え…あ!、んぅ……っ」
突然唇に彼の滑らかな唇が触れる。
「のんびりしていたらここまで取られてしまいそうだからね、それは許さない」
「………っ//」
「さぁ、お腹も空いた事だし帰ろうか。このままうちでランチを一緒にするのはどうだろう?」
こくこくと声を出せないまま私は勢い良く頷いた。
立ち上がり並んで歩き出して数歩。
こっそり振り返って楓の色を目に焼き付けたのは秘密にする事にした。
END