第1章 シェアハピ!伊達工
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「ちぃーっす」
ボールとシューズの音が響く体育館に、ひょっこりと顔をのぞかせたのは、引退したはずの三年だった。
顔を出したのが三年だと分かると、バレー部員達の中から大きな挨拶の声が飛び出す。
しかし現部長の二口の対応は少し違った。
白いシャツを限界まで腕まくりしている鎌先をちらりと横目で見て、二口は「また来たんですか」と盛大なため息とともに先輩達を出迎えた。
「大丈夫なんすか?就活。ココ来る暇あったら面接受けに行った方がいいんじゃないっすか」
「相変わらず可愛くねーな!二口」
「ほぼほぼ毎日顔出ししてるじゃないっすか。そりゃあ嫌味の一つや二つ言いたくもなりますよ」
「……へー、嫌味っつうのは自覚してんだな、お前……」
意外そうに言う鎌先に、二口は心底嫌そうな顔をしてみせた。
以前と変わらず、すぐ対立する二人に、茂庭は思わず口癖のようになってしまった青根の名を呼んだ。
こくりと頷いて青根が鎌先と二口の間に割って入る。
青根は二口に対しては容赦なく顔に掌を押し当てて制していたが、鎌先に対しては先輩だからか、少し遠慮して肩のあたりを軽く押しとどめた。
そんな見慣れた光景を軽く流しながら、笹谷は部員達に声をかける。
「そういやもう決めたのか?伊達工祭の出し物」
「!そうそう、それ気になってたんだよな!何やんだよお前ら」
笹谷の言葉に、鎌先も食い気味に会話に割り込む。
二口はじめ現役バレー部員達は、三年の期待を込めた眼差しに若干引き気味だった。
「皆で踊ります!」
いち早く返答したのは、アイディアを出した黄金川だった。
「踊り?」と首をかしげる三年達に、彼は部室で見せた振付を、大声の擬音を伴って再び披露した。
「おー?あー、あれか!三代目ナントカのやつ」
「三代目JSBっすよ、茂庭さん」
二口がJSBの部分をいやに流暢に発音するので、鎌先は彼に馬鹿にされたように感じたらしい。
捲られた袖をさらに捲り上げて二口にジト目をよこす。
「あっ!二口、今お前茂庭のこと『ダセェ』とか思っただろ!」
「……思ってないっすよ」
「なんだよそのビミョーな間は」
わいわいと盛り上がる部員達を尻目に、青根は一人思うのだった。
バレーの練習がしたい、と。