第12章 Op.12 真夏の夜の調べ・2
ルイは吐息のかかる距離で口を開いた。
「……君に提案がある」
「………えっ?」
レオナは驚き目を見開いた。
ルイの目は真剣だった。
「……クロードの家を、出ない?」
「…えっ……」
確かに
レコード会社からお金を貰えるようになれば
部屋を借りて自活することは可能だ。
…当初そんな話もしていた。
「…会社から報酬が出れば、そうしてもいいんだけど……」
クロードの「契約」のことも頭の片隅から消えずにいる。
(クロードは許してくれるのかな…)
「君が、どうしたいかだよ」
ルイの言葉に、心の声を見透かされたような気がして鼓動が早まる。
「私は……」
会場の方を振り返る。
揺れるカーテンの隙間から
光が漏れている。
ちょうどそこからは
社長と談笑するクロードの横顔が見えた。
「………」
(離れた方が、いいのかもしれない)
離れたらきっと
今胸の奥に横たわる感情が何なのか
答えが見えそうな気もする。
(契約は契約だけど)
同居は契約ではなかったから。
「出たい、かな…」
やっと絞り出した答えを聞くと
ルイは
「じゃあ決まりだね」
「ん?なにが?」
「…城下の外れの方だけど、ハワード家で所有している不動産がある。今は空き家になっているから、君さえ気にいるなら使ってもらって構わない」
「……えええ?!」
目を丸くするレオナにルイが笑った。
「本当は譲ってあげたいところなんだけど…そうすると立場上色々問題があるから」
「とんでもない!!家賃払う!払います!でも、いいの?!」
ルイは優しく頷いた。
「来週…時間ある?」
「ん…ケイに確認しないとわからないけど」
「時間、あるなら案内する」
「あ、ありがとう!」
目を輝かせるレオナの頬に
ルイはそっと触れる。
「……気にいると、いいけど」
「ル、ルイ……」
ルイはそのまま顔を近づけてきた。
思わずレオナは目を閉じるが
「おやすみ」
ルイはそれ以上何もせずそのまま会場へ戻ってしまった。
顔を火照らせたレオナだけが、そこに取り残されていた。
(やだ、私…期待してた)
夜風で覚まそうと、レオナは夜空を仰いだ。