第5章 Op.5 再会の晩餐
クロードが交渉人(エージェント)として介入することを条件とした契約書にあらたにサインをして契約を完了させると
二人は社屋を後にした。
「さて…俺は王宮へ仕事に行く」
「え?王宮に?」
「ああ」
クロードは時計を確認して言った。
「これから王宮で王位継承者たちの撮影があるからな…そのスタイリストとして入る予定だ。その後はプリンセスのドレスの生地選びと、パターン作りと…」
レオナは改めて、クロードの本職はスタイリストやデザイナーであることを感じる。
「もしかしたらこっちの家には戻らないかもしれないから、適当に使ってくれ」
クロードは
家のカギとカードを一枚、レオナに渡した。
「これは?」
カードを手にしてレオナは尋ねた。
「ん?ああ…必要な買い物はそのカードで自由にしろ」
「えっ…そんな、いいの?」
慌てふためくレオナに、クロードはくすっと笑う。
「ああ…大丈夫。外で食事しても構わないし、キッチンも自由に使っていい。限度もないから気にするな」
「え、ええ?!」
レオナはカードを落としそうになる。
「……なくすなよ?」
クロードはにやっと笑うと
そのまま車に乗って王宮の方へ走らせていってしまった。
(行っちゃった……)
走り去るクロードの黒い車が見えなくなると
少しだけ心細くなった。
昨日初めて城下にやってきて。
それまではウィスタリアの片田舎にいたせいか
街はレオナにとって落ち着く場所が一つもなかった。
(おまけにどこに何があるかも…よく分からないし)
レオナはゆっくり歩き出す。
(とりあえず…本屋さんで地図見つけよう)
どこにあるのか分からないまま
レオナは本屋を探しに街を歩きだした。
歩きなれない場所のせいか
レオナはどんどん商業施設のないエリアに来てしまった。
(あれ…どうしよう)
これでは本屋どころか
クロードの家に戻ることもあやしくなってきた。
「ねえ…そこの子、もしかして迷ってる?」
突然後ろから声を掛けられレオナは振り返った。
そこには、銀髪に緋色の瞳をした男性が立っていた。