第4章 Op.4 契約成立
「クロードさん…それは」
クロードは口角を上げて言った。
「この条件が飲めないなら契約の話はナシだ」
「待ってください…!それだけは」
クロードの目は笑っていない。
「いいか、こいつはこれから莫大な利益を生み出す。それはこいつの才能に支払われる対価だ。その対価は本人に正当に与えられなければ意味がない」
相手の男は押し黙る。
「世間知らずの田舎娘にタダ同然で働かせて、利益は全部会社が持ってく…なんてマネされちゃ困るんでね」
「いえ、そのようなことは!」
「だったら…俺が交渉人(エージェント)として介入することに何の異議がある?」
「しかし……!」
クロードは目の前に用意されたサインのない契約書を破るそぶりを見せた。
「あっ……!」
男は腰を浮かせて声を上げる。
クロードの瞳が妖しく光り、動きを止めた。
「いいか。そっちにも決して損はさせない。俺はwin-winが好きなんだ」
「………」
男は眉根を寄せ、しばしの沈黙ののち腰を上げた。
「…わかりました。エージェントに関する事項を記載して契約書を作りなおしてきます…お待ち下さい」
そう言って部屋を後にした。
「……いいの、クロード?」
「ん?当たり前だろ」
クロードは他の契約事項にも目を通す。
「お前一人で契約してたら利用されるだけ利用されて終わりだからな」
「……」
レオナは
冷えた眼差しで契約書を読むクロードの横顔を見つめていた。
その視線に気づいたクロードは
少しだけ笑んだ。
「…どうした、そんな顔して」
「え…」
「…不安そうな、顔だぞ」
そう言ってクロードは眉間を指でぴんっとはじいた。
「いたっ!」
「お前は元の顔が綺麗なのに、それを台無しにするような顔をする」
「……」
「……今まで、苦労してきたんだな」
「…っ!」
ふいに出たクロードの言葉に
レオナは胸の奥をぎゅっと締めつけられるような気がした。
更にクロードは
レオナの頬をすっと撫でた。
「これからは、そんな不安な顔をずっとしているような生活はさせない。覚悟しとけよ」
「………」
昨夜されたことがまるで嘘だったかのように
目の前のクロードは
ただただ紳士的で優しかった。