第1章 Op.1 原石発掘
…真っ白い砂浜。
海岸には、誰もいない。
海は空と同じ色をしていて
水平線がどこなのかもわからないほどだ。
雲ひとつ浮かんでいない。
レオナは
真っ白なワンピース一枚で
ひとり、砂浜にたたずむ。
海からの風が
レオナのダークブロンドの髪をなびかせている。
『……レオナ』
どこからともなく
名前を呼ばれる。
聞き覚えのある声。
『……レオナ、
あなたの声は力がある。
きっといつの日か
世界中の人が
あなたの声を聞いて……
喜び、涙する日が来るわ……」
「お母さん…」
誰もいない、砂浜。
(……お母さん)
目を閉じる。
海からの風だけが
レオナの身体を包みこみ……
「……さん……レオナさん!!!」
次に目を開けた瞬間
そこは砂浜ではなかった。
「レオナさん!準備してくださいね!」
あわただしく人が行き交う部屋。
台本を持つ人、インカムをつけた人、衣装を運ぶ人
名前を呼んだスタッフらしき女性は
そのままどこかへ走り去っていく。
レオナは鏡の前に座っている。
目の前には
いつもの冴えない自分がいる。
ダークブロンドの髪は
いつ切ったのか忘れるほど昔で
ゆるいクセがかかり広がっている。
一度も化粧をしたことのない顔。
伸び放題の眉毛。
何を着たらいいか分からなかったので
Tシャツにデニムで来てしまった。
……そんな出で立ちの人間は
スタッフだけだった。
ここはウィスタリアのテレビ局。
収録スタジオの楽屋だ。
今、世界的に流行っているオーディション番組が
最近になってウィスタリアでも放送されることになり
今日はその収録日なのだ。
このオーディション番組は
三人の審査員が、出演者に
辛らつな言葉や厳しい言葉を浴びせ容赦なく落としたり
またその逆で涙を流して称賛したり
そんな「リアリティ」と「本物の埋もれた才能」が
発掘される瞬間が面白く
ヒットしている番組なのだ。