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互換性パラノイア【TOA】【裏】

第23章 優艶の夢を見た日


「ん……ここは……。」
目を覚ますと、私は薄明かりしか入らないような小さな四角い部屋に入れられていた。
揺れているのと、たまに聞こえる蹄の音で、恐らく運送車であることがわかった。
僅かに見える空は、私の心とはまるで違って、雲1つない青空が広がっている。
どっと不安が押し寄せるけれど。
死ぬのはもう怖くない。無くすものも何もない。
心残りなのは、最後にもう一度会いたかった。
まだ死ぬと決まっているわけではないのだけれど、手足にからジャラっと金属のぶつかり合う音が聞こえて、もう外に出てはいけないという事実を受け入れるしかなかった。

もう時間の感覚もなかったが、光が射すことがなくなり、箱の中は緩やかに闇に染まった。
ツラいとか悲しいとか怖いとか、もうそんな感情はわかない。
蹄の音と共に私の呆然とする時間も終わった。
「…とまった?」
誰もいない箱は、声を反響させることもなく、私は一人ごちた。
「起きたのか。」
見知らぬ男性が箱を開けて私を見た。
「すみません、何がなんだか……。こ、ここはどこですか?」
外からの風がひやりとする。
「聞いたことあるかい?ケセドニア。」
首を横にふる。そうか、知らない土地にとうとう来てしまったとぼんやり思う。
「可哀想に、君は屋敷から追い出されて売られたんだよ。」
「…はい…。」
あたたかな屋敷だったのに…。
落胆はしたけれど、やっぱり、という気持ちの方が大きかった。
「今日からここの路地裏でお仕事だよ。
みんな優しいから、大丈夫さ。」
変な花の香りがする。
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