第21章 深淵に立たされた日
「ルルさん、夜分にすみません。」
「あ、はい。」
休憩室で作業をしていたが、少し先輩の使用人に呼ばれて部屋を出る。
「旦那様がお呼びですよ。」
「私に…?」
少し不自然に思った。
最近特に大きな失敗をしていないし、何か他用事だろうか。
思い出しても特になく、そしてもうすぐ就寝時感に呼び出す意味もわからず、緊張しながらお部屋に向かった。
「失礼致します。」
蝋燭で部屋は暖かな光に包まれていた。
木を基調とした作りの寝室は、お城のそれとは違って少し落ち着く。
それでも懐かしいあの部屋に戻りたいと何回も思った。
御主人様はよくきたね、と言うと、本題を切り出す。
「君は、あの城で、彼のカーティス大佐の恋人だったのではないのかね?」
「ち、違います。私は引き取っていただいただけで、あそこで生活はしてましたが、特になにも……。」
「花嫁修業でこちらに来たというわけでは…」
「決してありません!」
失礼ながらに首をぶんぶんと横にふってしまい、全力で否定した。
「ああ。それなら安心したよ。」
「は、はぁ…。」
いまいち話の筋道がわからず、私は首をかしげた。
「先日、実は取引に失敗してな。この屋敷を手離すかと考えていたんだがな。」
「え…?」
「君みたいな若い子が多額で売れる所があるんだよ。」
後ろに誰か来た気配がした。
すっとハンカチを当てられて、私は意識を失った。
「大佐の花嫁だったら大騒ぎになるところだったけど、身寄りのない娘で助かったよ。」
遠い意識の中で、そんな言葉が聞こえた気がした。