第20章 11日目
回廊に私のすんすんという嗚咽が響いてしまうため、お部屋に入れていただいた。
適当に置いてあったタオルを、陛下は綺麗かどうかを確かめてから私に渡した。
「ううっありがとう、ございまっ………!ひっく……」
「おおよしよし、泣いとけ泣いとけ。」
頭を撫でられ、少し落ち着く。
「なんでそんなことになったんだよ…。」
「ジェイドさんに、離れた方が幸せになります、って言われて、私も……いつか、それを言う日が来ると思って……そうしましょうって……。」
「……お前なぁ…。」
「これで、これでいいんです……っ!」
私がピオニー様のお部屋を出れたのは、目が真っ赤に腫れてからだった。
ピオニー様は、氷嚢を用意してくれて、少し落ち着いたのだけれども、やはり赤みが引くことはなかった。
苦笑いを浮かべて、背中をさすってくれた。
「なんなら俺の嫁になるか?アイツより大事にしてやるよ。」
と冗談混じりで聞かれて、私は笑顔でやめておきます、と返した。
夕方に馬車のお迎えが来た。
いつもお世話になっていたメイドさん、メイド長さん、よくからかってくれる兵士さんたち、ピオニー様が大きな花束をくれてお見送りしてくれた。
たったの10日間しか一緒にいなかったのに、みんな寂しそうにしてくれた。
ジェイドさんは、いなかった。
でも会ってたら、きっと離れられなかった。これでいいんだ。
私はまた泣きそうになり、急いで馬車に乗る。
「また、みんなで飲もうぜ。」
「はい。」
ぱかぱかと馬の蹄の音が聞こえると、私の大好きな宮殿が小さくなっていくのが見えて、とても切なかった。
グランコクマの水と夕日が反射しあって、綺麗な虹を作っていた。
窓を閉めると、花束を持ち直す。
ピオニー様の大きな薔薇の花束に、1枚の紙が入っていた。
「…!」
ジェイドさんのクセの少しある綺麗な字が書かれていた。
「私からへの最後の恩返しです。
幸せになってください。
次に会うまでにそれが出来ていないようでしたら、例えどんなに嫌がっても貴女を離しません。」
なんで最後にこんなこと言うのだろう。
もっと早く言って欲しかった。
馬車からまた顔を出す。
そこに見慣れたブロンドは見えなかった。
風に乗って届きますように、と祈りながら呟いた。
「いつまでも、待ってます。」