第20章 11日目
昨日のジェイドさんは少し様子が変だった。
ピオニー様を止めることが出来なかった。
きっと、私の気持ちを伝えたに違いない。
ジェイドさんといつもの夜を過ごしたけれど、いつもとまるで違っていて、私の名前を呼んでは苦しそうにしていた。
とても心配だったけれど、お身体が悪そうなわけでもなく、切なそうにたまに瞳の色が移り変わるのをなんとなく見ていた。
「お互いに離れた方が幸せになれる。」
それは、出会った時からずっと思ってたことで、今更ショックを受ける結論でもないけれども、いざ、本人の口から言われるとどうしようもないくらい悲しくて、思わず泣いてしまった。
「私が、最後に出来るお礼ですから、たくさん気持ちよく、なってください…!」
振り絞るように、声が震えないように言う。
それは心から出た言葉で、そして自分本意の願いだった。
せめて最後は、恩人としてではなく、恋する一人の女の子として見ていて欲しかった。
何も言わなかったけれど、ジェイドさんに伝わったのか、苦しそうに、それでいてまさに恋人のように夜を過ごしてくれた。
嬉しくて恥ずかしくて、でも悲しくて、未だに身体から抜けていかない感触と下腹部のずきずきとするうずきを、きゅっと抱えた。
もうこれで、心残りはない。
たった1日だけ閉じ込められていた部屋を出ると、荷物を纏めて私服に着替えてしっかりとジェイドさんにお辞儀をする。
「今までありがとうございました。」
「こちらこそ。とても楽しかったですよ。」
鼻がツンとして、今にも泣きじゃくりそうになるのを堪えて、私はピオニー様の待つ王室へ足を運んだ。
朝聞いた話によると、グランコクマにある貴族のお屋敷の使用人として住み込みで働けるというところをご用意いただけた。
昨日の夜、ジェイドさんのお帰りが遅かったのを考えると、ギリギリまで探してくださったのだろう。
その気持ちが嬉しくもあり、悲しくもあり、複雑な気持ちだった。
「おい、お前……。」
ピオニー様のお部屋の前につくと、開ける前に扉が開いた。
私は涙を流しきってから開けようと思ったのに、先に出てきたピオニー様に驚かれてしまう。
「なんか、俺のせいだ、悪かった……。」
首を横にふる。遅くても、いずれこうなることはわかっていた。
これでいい。