第18章 10日目
「ジェイドさんは…素晴らしい方です。
一般庶民以下の私では、ダメなんです…っ。」
言いながらどんどん涙が溢れてくる。
「もっと、綺麗で可愛らしくて、ドレスも似合って、育ちもきちんとした女性でないと…!」
「もういい!お前が俺の養子にでもなれば、肩書きはとりあえず合格だろう!それでいいだろう!?」
「な、何を仰ってるんですか!?」
「お前が気にしてるのはそこだけだろ!?
じゃあそこはそれで解決だ。次は何が問題なんだよ!?」
「だって、…だって、ジェイドさんにもし今後、恋人が出来たらどうするんですか!?
私なんて、要らないだけじゃないですか!
邪魔じゃないですか!3人で暮らせとでも言うのですか!?」
「絶対にそれはない!!」
「ない…って…!?」
「アイツは、お前しか見えてないんだよ!好きなんだよ!!理解れよ!!」
「それこそ、ないですよ…。」
お互い声を荒げていることに気付き、ドア越しに二人でため息を吐く。
「なんでないんだよ……。」
「っ!だって……」
「閉じ込めるくらい好きなんだよ。わかってやれよ。
いい年して未だにちゃんとした恋愛もしたことない可哀想なおっさんなんだよ。
こんな不器用なことしか出来ない、本当に可哀想なキモイおっさんなんだよ。」
呆れながら言うその物言いに思わずくすりと笑ってしまった。
「…でも、ただの、ペットに対する気持ちなんだと思います。」
「ちが……」
「私も、一緒にいたいんです…っ!
ペットでも人形でもいい。一緒にいれればなんでもいい…っ!」
溜めていた気持ちを吐き出すと、涙が次から次へと出てくる。
「でも、もしそれが拒否されたら、怖いんです…。」
「わかった、これ以上はもう言わない…。」
ピオニー様が寂しそうに言われると、急に悪いことをしてしまった気持ちになった。
「アイツを説得しにいく。」
ピオニー様が扉の前で意気込んで立ち去る音がした。
「え!?なん……」
止めようとした時には既に遅く、廊下へと出ていく気配だけが感じ取れた。
「ど、どうしよ………。」
どうにか部屋から出たかったが、どうにも出来なかった。
窓の鉄格子からも、身体を出すことは叶わなかった。
「ピオニー様!待ってくださいっ!!」
窓から姿は見えず、叫べばなんとか届かないかと思ったが、私の声は風にかき消されただけだった。