第18章 10日目
「おーい、ルル。起きてるか?」
こんこんとノック音と共に、ピオニー様の呆れたような声が聞こえた。
「あ、おはようございます。
すみません、こちらがわからだとこのドア開かなくて…。」
「うん、見ればわかる。お前が見たら引くくらいの錠前がついてるぞ。」
「引くくらい!?」
どきっとしながら知らなかった真実を知る。
「アイツの持ってる鍵でしか開かないようだな。」
「…いいんです。私も了承の上ですので。」
そうかー、と安心したような声が聞こえた。
「窓は開くのか?」
「はい。昨日、空気の入れ換えくらいはしたいと申し上げたところ、今朝には鉄格子に変わってました。」
くすくすと笑いながら言うと、
「よく笑えるな!」
と仰られた。
「悪いな。こんなことになって。」
「気にしてませんよ。私も、勝手に出てしまいました。
昨日のお帰りも、とても怒っていて、それで心配してくださって…。
こんな身寄りのない私を、助けて、いなくなったら探してくれて、とても嬉しかったです。」
「本人にもっと言ってやってくれ。」
ドア越しにくぐもったピオニー様の声が聞こえた。
昨日、お互いが冷静じゃなかったのもあって、なかなか上手く伝えられなかったのを思い出した。
雪崩れ込むように、雨と重たくなったジェイドさんの香りに酔って、心地いい夢の中に誘われたような夜だった。
ふとピオニー様が近くにいらっしゃるのを思い出して恥ずかしくなる。
「…はぁ…。お前ら、早くくっつけ。俺の平穏のために。」
ため息混じりにそう言う。
「アイツは、人がいなくなることに対して結構弱いからな。前にもあったんだ、そんなことが。」
「……はい。」
「お前もいつかいなくなるんじゃないかって、心配で仕方ないんだ。」
寂しそうな声で一言一言を選んでお話をする陛下を少し意外に思って聞く。
「はい。ですから、昨日こうして、お部屋にいるというお約束を……」
「違うだろう、こんなのは、下手したら犯罪だろう。お前はアイツとどうなりたいんだよ。」
その言葉には同意する。
でも、やっぱり、それは出来ない。
今の脆い繋がりが無くなれば、私はきっとここにはいられない。