第60章 【番外編】パブロフの犬
きっと彼女は、最初は香りだけで満足するだろう。
やがて、あの小瓶を開け、直接香りを楽しむようになる。
鼻腔から成分を吸い、少しずつ身体に浸透していくだろう。
どうにも出来ないむず痒さに、あの恥ずかしがりな彼女は堪えられるのか。
そしてゆくゆくは、媚薬なんてなくても、私の香水だとわかっただけで、身体が勝手に追い求めていく。
時間は、何日くらいかかるだろうか。
遠征期間を逆算しながら、私はゆっくり帰るのを楽しみにした。
城に戻り、山ほどの書類を片付け、終えようというところでルルさんが来てくれた。
少しお疲れのようで、目の下は黒くくまが出来ていた。
「おかえりなさい…!」
「はい、ただいま。」
ぎゅっといつものように抱き締めようとすると、するりと抜けられる。
「どうしましたか?」
なんとなく、頬が緩む。
「あ、ご、ごめんなさい… 」
顔を赤らめて反らす仕草…これはなかなか良さそうな結果だ。
1歩寄ると1歩逃げようとする。
「何か?ございましたか?」
また近付くと、彼女はふるりと肩を揺らす。
「いや、あ、私、最近、変で……」
顔がどんどんと赤くなり、潤んだ瞳をそっとまた反らされる。