第58章 【番外編】その距離は
「ルルさん、ケーキはもう頂きましたか?
今日のはとても美味しいと好評でして、メイド達も是非ともルルさんにと…」
「ジェイドさん、私、そんなに子供みたいですか?」
「…気になさらなくていいですよ。私はとっくに貴女のことを子供扱い出来なくなってますから。」
ああ、なんでこの方はいつも、私のもやもやを上手に消してくれるんだろう。
「いつの時代の貴女も、可愛くて、美しい。」
「ジェイドさん…。」
舞踏会が盛り上がる中、ジェイドさんは私の手をゆっくり引いてホールから出た。
「ルルさんは気付いてましたか?
ホールでたくさんの男が貴女を目で追っていました。」
「そんなこと、ない…」
「私は陛下と同じ席、上から見ておりましたので、すぐにわかりました。
もう、気が気ではなくて…。」
ふふっと笑うと、ジェイドさんも微笑む。
「目でずっとルルさんを追っていたものですから、陛下にワインを頭から被せてしまいまして。」
「え!?」
「ウザいしもういいから、と護衛を外されてしまいました。」
ジェイドさんがそんなミスをするのを想像できなくて、くすくすと笑ってしまう。
「ピオニー様、大丈夫ですか?」
「お着替えしてたようですし、大丈夫でしょう。」
ホールの扉から、微かに音楽が聞こえてくる。
「誰もいませんし、ここで踊りましょうか。」
「は、はい…。」
まだ数回しか練習していないステップを、ジェイドさんに合わせて踏んでいく。
ひらひらとドレスが舞って、まるで私じゃないみたいで、虚ろに見つめてしまう。
ヒールを履いてても、まだまだジェイドさんのお顔は遠い。
私は、本当にまだまだ小さい。
身長は、もしかしたら伸びるかもしれない。
でも、生きている長さはどうしても縮められない。
ドレスを着て、ヒールを履いても、私は私のままで、このまま埋められない距離を、持ち続けるのだろうか。
そんなことをぼんやり、考えていた。
「私、本当にジェイドさんのお嫁さんになれますか?」
「すぐにでもしたい程ですねぇ。」
「子供っぽくないですか?」
「そこも可愛らしくて好きですよ。」
「ほら、子供扱いした…。」