第57章 【番外編】好敵手
枯れ葉が揺れる季節、私は中庭を掃除していた。
お城の中庭は、外側と同じように噴水がいくつもある綺麗な場所。
私はこの空間がとても好きで、のんびり午後の予定を立てながら木の葉を集めていた。
今日はジェイドさんはお休みだ。
好きな茶葉でロイヤルミルクティーと朝焼いたシフォンケーキを出したら喜ぶだろうか。
そんな期待に胸を膨らませていると自然に頬が緩む。
ミルクティーに少しだけブランデーを入れて温まって貰おう。
そんなことを考えていると、少し年上だろうか、一人の男性が話し掛けてきた。
「ルルさん…。」
「はい?」
確かジェイドさんに前に紹介してもらった、新人の兵士さんだったか…。
名前が思い出せなくて、私は誤魔化そうとした。
「あ、こんにちは!ジェイドさんをお探しですか?
もしかしたら今ならお部屋に…」
「違います。」
彼はそう言うと私の手首を握る。
別にそんなつもりないとは思うんだけれど、私はなんとなく恥ずかしくて顔が熱くなる。
「…ぁ…」
「ルルさん、好きです。
どうしても諦められなくて…。」
熱のこもった瞳でそんなことを言われる。
私は、それに答えることが出来ない罪悪感にふと襲われる。
「あの……」
「すみません、困らせるつもりはないんです。
でも、どうしても、言いたくて。
初めて見たときから好きでした。」
真っ直ぐに言われる言葉が照れ臭くて、身体がくすぐったくなる。
そんなつもりないのに、ドキドキと鼓動が早くなる。
「勿論、ルルさんには、素晴らしい恋人がいることは知っているんですが…。
俺、もうすぐ城を出て、違うところに配属されるんです。
最後の思い出に…二人で、出掛けてくれませんか?」
「え!?」
「それもダメですか?」
しょんぼりとしたその姿は、まるでわんちゃんのようで、ちょっときゅんとする。
「なんとか、聞いてみますね…?」
と無理矢理笑顔を作ったが、きっと怒られるだろうな…と落胆しながら部屋に戻った。