第51章 彼女の追懐
可哀想な気持ちと、私だけを認識してもらいたいという複雑な独占欲、今ならわかるような気がする。
彼女は何も話せなくなった。
恐らく私が学会に無理矢理連れていってしまったストレスからだろう。
檻に戻った彼女はどんどんと弱まっていった。
すぐにその後、私は研究の中止をした。
他のレプリカは失敗が多かった為、処分されたが、彼女だけは手元に置いておきたかった。
見つかってはいずれ誰かが処分してしまうだろう。
近くの小さな町にこっそり逃がした。
いつか、そのタイミングが来たら、必ず迎えに行く。
それまでこの本を持っていて欲しい。
彼女のお気に入りの本を渡した。
「かなしいから、いらない…。」
泣きながら突き返された。
その後、いろいろな町を転々としたのだろう。
何年も私は彼女を探し続けた。
ひっそりと暮らしていたのか、また私自身の多忙から、私は彼女を見失った。
捨てた町にはおらず、どこに行ったのか聞いてもわかるものはいなかった。
身体も被験者と違い、弱いから見つけても命があるかはわからない。
10年と少しかけて、漸く私は彼女を見つけた。
当時と変わらない儚さ、可愛らしさ。
手元にまた戻ってくるこの小さな少女を、生涯大切にする。
そう誓ったのが、あの日だった。