第50章 追懐
どうしたら楽しい?どうしたら悲しい?
と色々聞いてくれた。
なんて答えたらいいかわからなくて、一緒に本を読んでくれたり遊びに連れていったりしてくれた。
檻の中ではなく、小さなお部屋で暮らすようになった。
ご飯が美味しかった。
毎日ジェイドさんは大切にしてくれた。
夜、寝る前にいつも読んでくれる本があった。
少し悲しい恋愛のお話だった。
いつも読んで、私はいつも泣いていた。
ある時、私は『がっかい』に連れていかれた。
ちゃんとしたデータでこうなった、ということを舞台で紹介された。
なんとなく、幼いながらにそれが悲しかった。
私にかけてくれた言葉は嘘だったの?
私にしてくれたことは、嘘だったの?
全部、それは、その為だけに?
悲しくて落ち込んだ。
私は話せなくなった。
お話したこと、全てが世界中にわかってしまいそうで、怖くて悲しくて、なんにも話せなくなった。
また檻の中に戻った。
研究は打ちきりになった。もう、好きに行きなさい。
他の人はいなくなってた。
私だけそう言われた。
なんとなく、ジェイドさんとは離れたくなかった。
利用されてもいい。
側にいたい。
きっと、私は、初めて会ったときから、この人しかいないって思ってた。
悲しい恋愛のお話は、まるで私のことを書いているみたいだった。
ジェイドさんはその本を私にくれようとした。
思い出すとつらいから、と返した。
いつか迎えに行くから。待っていて。
そう言われて、私は研究所をこっそり出た。
見つからないように。
その言葉がとても怖くて、早く、遠くへ。
そしてあの町へ。
ぼんやりしていた景色が鮮明になった。
大きくなった私は、町に溶け込んだ。
でも、怖くて、ひっそりひっそり暮らした。
やがて、全部忘れた。
私のたった一つの心残り。
ジェイドさんとまた会うことだった。