第6章 4日目
「ルルだっけ?相当あいつに惚れてんだろ。」
「そんな、恐れ多くて……。」
ピオニー様にそう言われてしまい、私はどきっとした。
「ジェイドさんは、とても素敵な方です。私を助けて下さった上に、生活も用意して下さって、私なんかではとても……。」
「あいつも、お前のことを可愛がってるぜ。ここまで執着してんのは、俺も見たことがない。」
「そんなことありません。拾った猫の面倒を見ているくらいだと思います。」
そう続けている最中に、大きな手が私の顎をすっと持ち上げた。
「賭けてみるか?アイツの反応に。」
「…どういう、意味ですか?」
「さあな。」
ピオニー様は私の耳と頬に優しく口付けた。
ふんわりとアルコールの匂いが漂った。
「んっ、な、何を…!」
陛下は端正な笑顔を私に向けると、唇に親指をあててくる。
自然と開く口に、ゆっくりとそのお顔が近くなってきて。
反射的に私はまずいと思った。
「あっ、ごめんなさ、やめてくださいっ…!」
「なぜだ?ここに置いといてやってるのは俺のお陰でもあるんだろう?」
「ごめんなさい、でも、出来ません……!」
何故かわからなかった。そう、恩返しという形を取るのなら、私はそれに応じないといけない。
でも、どうしても、受け入れることが出来なかった。
「やっ!やめてくださ……」
涙が出てきそう。でも、我慢しなくては失礼になってしまう。
身体が震えて力が入らない。
助けてください、と声が漏れそうになる。
助けてって誰に?
自分の身体にきゅっと力をいれる。
目をつむり、誰かに訴えかける。
真っ先に浮かんだ人は、既に私の前にいた。
「はい、陛下おしまいです。」
「随分早いな。」
「全く……私の拾い物に勝手に手を出さないでいただけますか?」
「はいはい。目は笑ってねえぞ、お前。」
「そんなことないんですけどねぇ。」
私はあまりの緊張が貼りつめていたのが、糸を切ったように一気にとけた。
「陛下は本日はもうお帰りください。」
「やりすぎたな。悪かったよ。」
ジェイドさんのお部屋を出ていかれる音がした。
廊下から足音がしなくなると、ジェイドさんは私をさっと横抱きにして、いつもの笑顔で私を見つめる。
「ルルさん、気を付けましょうね……。」
「な、何をですか?」
「今からゆっくり教えますので、覚悟をしてくださいね。」
「え!?」