第36章 61日目
「その女は、見覚えないのか?」
「そうなんですよね…。お見合いする相手って、私が少しの間お世話になった、あのお屋敷の娘さんなんですよね?」
「ルルは見なかったのか?あそこでお嬢様とか。」
「女性なんて、メイドさんたちくらいしかいなかったはずなんですけれども……」
一生懸命思い出そうとうんうんと考えてみるがやはりお嬢様はいなかった。
「そのキスした相手って、もしかしてお見合い相手なのか?」
ピオニー様が思い付いたようにそう言った。
「え!?そうだとしたら、私、既に蚊帳の外、ということですか…?」
「ち、ちが!まだ決まったわけじゃねえ!!
毎日毎日キモいくらいにデレッデレでお前の話聞かされてんだ!それは、ないはずだ!」
(な、なんの話してるのよ…!)
沸騰するくらい顔が熱くなって私はピオニー様を直視出来なかった。
「そのお嬢になんか脅されてんだ、絶対…。
今ジェイドは各地の貴族の会合を渡り歩いて情報を探してる。
一緒に信じて待とう…。」
ピオニー様はそう言い、私の背中をバシバシと叩いて励ましてくれた。
とても力強くて思わず咳き込んでしまった。
それはとてもありがたくて、嬉しくて。
なんとなく、安心出来た。
「ありがと、ございます…。」
目から大粒の涙が次から次へと溢れて、止まらなくなった。
「大丈夫だ。心配すんな。」
そのまま励ましてくれて、優しい方たちに囲まれて幸せだと思った。
昨夜眠れなかったのか、私はそのまま疲れてうっかり眠ってしまった。
「こんな無防備に寝やがって。そのうち襲うぞー。」
そんなこと言われていることにも気付かず、私が次に起きたのは、深夜だった。