第28章 57日目
ジェイドさんはその日、お休みだった。
私と心機一転、生活を始めてから1週間。
私はジェイドさんに少しだけ、お仕事をなさる執務室でお勉強を教えて貰っていた。
学校に行ってたくらいの年齢の記憶がない私は、常識もかなり抜けていたので、不自由な生活にならない知識を教えてくれるという話になっていた。
お菓子と紅茶を交えて、ゆっくりと過ごしていた。
「ルルさんは、ルークと違って飲み込みが早くて楽ですねぇ。」
「そんな…ジェイドさんの教え方、すごくわかりやすいからですよ。」
「可愛いですね、そういうこと言うの。」
目を瞑って、と言われると、大人しくそれに従う。
唇に触れるだけのキスをされ、肩がびくっと揺れる。
何されるかわかっていても、私の身体は、まだ怖いことの記憶が残っていて、触れられるとつい反応してしまう。
「すみません、怖がらせるつもりはなかったのですが…。」
申し訳なさそうにジェイドさんは眉知りを下げて言った。
「私こそ、すみません…。まだ怖いのが抜けなくて…。」
「少しずつ慣れるしかありませんよ。」
本を閉じながらジェイドさんはそう言う。
私はほっと安心して、ペンを置いた。
優雅な手付きで眼鏡を外すと、椅子に座っている私に向き直して、手を重ねてきた。
「続き、してもいいですか?」
有無を言わせない瞳に何も言えなくなる。